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ケネス・タナカ先生 授賞式 謝辞(第27回中村元東方学術賞授賞式)

2017年10月10日に第27回中村元東方学術賞授賞式がインド大使館にて行われました。 今回、受賞されたケネス・タナカ先生が話された謝辞をご許可のもと掲載いたします。どうぞ御覧ください。

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 この度、このような大変名誉ある学術賞を授けていただけましたことを心より感謝・御礼申し上げます。

 私としては未だに信じられないというのが本音でございます。信じられないのは、私だけではなかったようです。実は、私の知人がフェイスブックに「ケネス先生が学術賞を受賞されました」と載せてくれたのですが、それを読んだ別の知人が「? 何かダジャレ賞でも受賞したの?」と返事をしたんです。これを見て、私は「こらっ」と思いました。(笑)

 すいません。アメリカのやり方としては、ジョークで始まるのが癖になっていますので。しかし、これは真実です(笑)。本当に実際にあったことなんです。

 先ず、インド大使閣下へ感謝の意を述べさせていただきます。この賞をいただくに当たり、子供の頃に経験した数々の困難を思い出し、また、それがまた「慈悲の御縁」ともいえる支えをいただくことで救われ、何とか逆境を乗り越えて今日に至ったことが、この賞をいただけるようになったのだと感慨深く思っているところでございます。

■英文賞状授与(スジャン・R・チノイ大使閣下)

慈悲の御縁

 今からその五つの「慈悲の御縁」とも言える出遇いについて少しお話しさせていただきます。

 第一として、私は山口県に生まれましたが、十歳の時に、英語もまったく話せないままにアメリカに渡りました。その頃は、今の日本とはちがい、想像もできないような異国に来てしまったと心細く思うほどに、日本とのギャップに苦しみました。しかし、それでも転校先のカルフォルニアの小学校では、先生方や同級生のみんながとても暖かく迎えてくれたので、この逆境を乗り越えることができました。これは、今のトランプ政権の「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」精神と白人至上主義の傾向とは、かなり異なっていました。

 二番目として、やがて私も大学生となり、働きながら学費を稼いで、カルフォルニア州立大学に通い始めました。しかし、その頃、両親の不和などもあり、今の自分自身に甘んじてはいられないと心を入れ替え、猛烈に勉強した結果、スタンフォード大学が私を受け容れてくれたのです。これは驚きでしかありませんでした。何故ならば、理由の一つとして、当時、大学に合格できる人数には人種の枠がありました。白人学生の枠が九十五%、それ以外は五%に過ぎなかったからです。そして、スタンフォード大学に行くことができたお蔭で、姉妹校である慶応大学に短期留学することができ、そこで慶応大学の学生だった家内の兄、現在、大妻大学教授である西河正行氏と知り合い、家内と出会うことができたのです。

 三番目。卒業後、私は一九七四年に日本へ留学するのですが、当時、私の語学力が足らなかった私に、東方学院が、日本語とサンスクリット語を学ぶチャンスを与えてくれました。そのお蔭で、翌年に東京大学インド哲学科の大学院に進むことが可能になったのだと信じております。つまり、東方学院がなければ、私の日本への留学は失敗に終わっていたかも知れないのです。その後、一九七八年に東京大学の博士課程を中退して、カルフォルニア大学の博士課程に移りました。そこでの勉強は大変厳しいものでした。毎晩、午前二時、三時まで勉強するのが何年も続きました。ただ、救いとなったのは、夜中の十二時頃に家内が先に寝る前に必ず暖かいお茶を持って来て「頑張ってね」という励ましの言葉がありました。時には、お湯のポットを「ポット」と(笑)置いてくれました。

 第四番。そして、無事に博士号を取り、アメリカの大学院大学で勤めたのですが、四十歳代後半の頃、少々行き詰まりを感じ始めていた頃、武蔵野大学が私を呼んで下さったのです。そのお蔭で、この二十年間、武蔵野大学で素晴らしい教育と研究環境を提供されて、その中で自分の得意な研究を追求することができたのです。また、この間、仏教伝道協会にも大変お世話になり、英語の翻訳プロジェクトやアメリカへの英語仏教のテレビ番組の制作や仏教講座を担当する機会を与えてもらったのです。

 以上のように、さまざまな困難が訪れたたびに「慈悲の御縁」に巡り会うことができて救われたのだと思っています。

■和文賞状授与(前田専學 先生)

多様性と実践性

 さて、残された時間はあまりありませんが、研究や学問に関して、私が大切にしてきた「多様性」と「実践性」という二点について簡単にお話させていただきます。 先ず「多様性」についてです。私が「多様性」の重要性を強く感じたのは、二〇〇三年にインドのバンガロール市にあるカトリック系のダーマラム大学で集中講義を行った時のことです。これは見事に多様性に満ちた出来事でありました。

①仏教の故郷であるインドで。

②日系アメリカ人の私が。

③カトリックの神父になる神学生たちに

④主に東アジアに発展した浄土教について講義した

まさに面白い興味深い組み合わせであったのです。

 「多様性」について、もう一つありました。ダーマラム大学内にはイエス様の大きな油絵がありました。それ自体はカトリック系の大学ですから当然のことでしたが、驚いたのは、その油絵に描かれたイエス様が結跏趺坐をされていて、あたかも瞑想している姿として描かれていたからです。これは、私にとっては衝撃的なものでした。アメリカでは考えられませんし、見たことはありません。このような環境に置かれているインドの大学では、イエス様にも多様性が見出されていたのです。このようなインドでの体験は、私にとりまして興味深い「多様性」を象徴する出遇いでした。そして、このインドでの経験が、それまでの自分自身の先入観を問うことになり、私自身の研究や学問への境界線を更に広げることとなり、さまざまな事への理解を深めてゆく基盤になっていったと思います。

 さて、最期にもう一点の「実践性」について述べたいと思います。実践性の大切さは中村元先生ご自身が私に示してくださったことがあります。私は一九七四年の四月から東方学院への入学が決まり、三月には東方学院を訪れ、ご挨拶に行った時のことでした。東方学院の入り口のそばに事務の方と思われる初老の男性が坐っていましたいました。それで「カルフォルニアからまいりましたケネス・タナカでございます」と申し上げると、その事務の方は「あぁ、ケネスさん、遠い所からようこそお出でになりました」と、椅子から立たれて、私に深々と私にお辞儀をされ始めたのです。その瞬間「この方が中村先生ご自身である」と気づいたのです。そして、慌てて私もお辞儀をしようとしたのですが、なにしろ、お辞儀をする習慣がないところで育っている私にとっては、なかなか腰が曲がらないのです。私がどんなに一生懸命に腰を曲げてお辞儀をしようとしても、中村先生の頭は常に私の頭の下にあり、私のような若造に深々とお辞儀をしてくださったのです。今、先生ほどに頭を下げることができなかったことを思い出して、失礼なことをしたと大変後悔しております。今でも、中村先生には「頭が上がりません」(笑)。

 先生とのあの日の出来事は、中村先生の研究の内容を象徴する「慈悲の心」を、ご自身で身をもって実践されているということを学ばせてもらいました。それ以来、私の人生でかけがえのない出来事となり、私も自分の研究内容を少しでも実行・実践しなければならないと常に日常生活で努力させていただいております。

 以上の二点―多様性と実践性を、今後の私の研究と教育においても大切にしてゆきたいと思っております。 最後になりましたが、前田専学理事長をはじめとして、中村元東方学院研究所の皆様、この度は誠に有難うございました。そして、今夜、この会場に、お忙しい中、御出席をたまわりました皆様、誠に有難うございました。身に余る幸せな気持ちを原動力にして、これからも楽しく頑張っていく所存でございます。今後ともご指導・ご鞭撻を宜しくお願い申し上げます。

■中村元 先生

●中村元東方学術賞

東方学(東洋学)の優れた学術研究および文化活動に対して財団法人「東方研究会」が授与する学術賞。インド哲学の大家である中村元を記念しており、インド学、仏教学の中では権威のある賞とされる。

●ケネス田中博士プロフィール

昭和22年11月2日生

〈学 歴〉昭和41年9月 カリフォルニア州立大学サンホゼ校入学

昭和43年1月 スタンフォード大学編入

昭和45年6月 スタンフォード大学人文学部人類学学科卒業

昭和48年6月 米国仏教大学院大学修了昭和49年4月 東方学院入学

昭和50年4月 東京大学大学院人文科学研究科印度哲学専攻修士課程入学

昭和53年4月 東京大学大学院人文科学研究科印度哲学専攻博士後期課程入学

昭和53年9月 カリフォルニア大学バークレー校研究科仏教学専攻博士後期課程入学

昭和61年6月 カリフォルニア大学バークレー校研究科仏教学専攻博士後期課程修了

● 武蔵野大学教授・国際真宗学会前会長・日本仏教心理学会会長

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