【誰そ彼のことばno.5】「平和だから、朝ドラ受けがあった」【仏教コラム】



「平和だから、朝ドラ受けがあった」 ツイッターの声


「朝ドラ受け」とは、平日朝8時15分からのNHK番組『あさイチ』の出演者が、直前の同局の朝のドラマ(朝ドラ)『連続テレビ小説』について番組冒頭でコメントを行うことです。その日の主人公のふるまいや台詞、ストーリーに直後の放送の『あさイチ』出演者が一喜一憂してコメントする。朝ドラファンのなかには、ドラマからの一連の流れとして、「朝ドラ受け」のリアルタイムのコメントや反応を楽しみにしている人がたくさんいます。

 しかし去る2月25日、朝ドラは放送されたものの、『あさイチ』は放送休止。代わりに流されたのはロシアのウクライナ侵攻に関するニュースでした。これを受けて、インターネット上のツイッターには「朝ドラ受けは平和の象徴だったんだな」「平和だからこその朝ドラ受けだった」等の朝ドラファンの声が続々と投稿されました。

 これらのツイッターの声に「平和ボケ」「お花畑」など揶揄する投稿も見られたわけですが、果たしてそうでしょうか。

 いかなる戦争も、いったん起きれば「日常」を暴力的に踏みにじり、大切なものを奪っていきます。学校に行くこと、家族や友人と過ごすこと、趣味を楽しむこと、家でのんびり過ごすこと――。あらゆる「当たり前」だと思っていたことが、できなくなり、そして最悪は命を奪う。先の太平洋戦争で私たちが歴史から学んだことです。

幸いに日本は戦後77年の長きにわたって、平和が守られてきました。しかし、当たり前のその平和な日常が突如、否応なく暴力的に奪い取られる事態が戦争なのだと、朝ドラ受けという日常を通して、多くの人が身近なリアルに差し迫ったこととして気づいたからこそ、ツイッターに投稿したのが今回だったのではないでしょうか。

現在放送中の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』は戦前から戦後にいたる母娘三代のヒロインの物語ですが、ラジオ英会話好きの初代ヒロインの安子が「ラジオ英会話を楽しむ」という日常を突如、奪われたのは太平洋戦争開戦のニュースからでした。ドラマの視聴者のなかには2月25日、物語が現実と反転するように感じた人もいたようです。

平和は守ろうとする意志がない限り、いつでも「戦争をしたい人たち」「私さえよければと思う人たち」によって破られるのだと、今この情況が教えてくれます。

私にできることは何か。一人ひとりの平和への思いが問われています。

 

【『誰(た)そ彼(かれ)のことば』とは?】

 日々の生活の中で出遇う誰かのことばを通し、仏教的な視点を交えつつ深め、味わっていこうという新コラムコーナーです。

「誰そ彼」には元々「あなたは誰ですか?」という意味があるといいます。また、その言葉が転じて「黄昏(たそがれ)」という言葉になったと言われています。黄昏時は、「この世」と「あの世」が交わる時であるとも言われますが、仏教において「あの世」は「気づきの世界(彼岸)」という意味を持ちます。彼岸をたずね、此岸(しがん)「自分の世界、生活」の有り様に気付き、試行錯誤しながら歩むことが仏教の実践とも言えます。これから多くの方々との「ことば」と出遇うことを通し、日々の生活の糧としていけるよう、皆さんとご一緒に耳を傾けて参りたいと思います。

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